司馬遼太郎先生なら、昨今の集団的自衛権に関する議論をどのように語られるだろうか (その2)

「事変ノ文字ハ仏語ニテ(インサルレクション)ト云フ」
 (中略)
 井上はさらに日本語で説明した。
「事変とは寧ロ戦時ニ属シ内乱又ハ暴民ノ蜂起スル等不時ノ事変ヲ云フモノナリ」
 また、言う。
「政府ハ勢力ヲ以テ之カ鎮圧ニ従事シ人民ノ権利ヲ中止スルノ場合ニ云フモノナリ」
 となると、"事変"というのは小規模なものではない。まずは日本でおこる可能性のないほどの大きいものである。山田法相は、
「いっそ内乱という言葉をつかったほうがはっきりするのではないか。」
 といった。
 この司法大臣は明治十年の西南戦争のとき、司法卿にいながらふたたび軍服を着、第二旅団をひきいて南九州で戦った経歴をもっている。
 山田顕義が経験した内乱は、戊辰戦争では戦場が北日本と東北にひろがり、北海道におよんだ。西南戦争はその点、南九州を中心とした局地戦だったが、戦闘の激烈さは、類がなかった。非常大権が発動されるべき内乱とは、当然そのようなものだと山田はおもったにちがいない。
 結局、採決の結果、原案どおり、事変になった。

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